北千住の魅力を再発見! 北千住女子-SENJO-のアート散策

  • 2018年9月25日
  • 2021年12月22日
センジョ
撮影:加藤有紀

最近、雑誌やメディアで取り上げられることも多い「北千住」。
今、そんな北千住に「SENJO」と呼ばれる女性たちの”新しいブーム”が起きていることはご存じでしょうか。
「SENJO」とは”北千住女子=センジョ”という意味。
北千住の新しい魅力を再発掘し、北千住を満喫している女性たちのことなのです。
そんな最先端のライフスタイルを突き進む「SENJO」。
今回のテーマは、「SENJOが楽しむ、北千住のアートスポット」。
すっかり秋の訪れを感じる街の中で、表現の楽しさを身近に感じることのできる3つのアートスポットをご紹介します。

今回のSENJOは…

センジョPROFILE:為我井 香(ためがい かおり)さん
今回アートを体験するSENJOは、神奈川県横浜市出身、現在は足立区在住の為我井 香さん。
飲食業界の広告営業を経て、現在は北千住に8店舗、沖縄に2店舗を運営する株式会社一歩一歩の広報を担当。
店だけではなく北千住の魅力も発信する20代女性です。

廃墟同然の銭湯とボーリング場が小劇場とギャラリーカフェに

為我井さんがまず足を運んだのは、「北千住 BUoY(ブイ)」。

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千住仲町のミリオン通りと墨堤通りが交差する場所からすぐのビルに入口が

昨年夏にオープンしたこの施設は、なんとかつては銭湯&ボーリング場。およそ20年もの間手付かずで、オープン前は廃墟のようになっていたそうです。
地下の銭湯スペースを小劇場に、ボーリング場スペースをカフェとギャラリー、スタジオ、稽古場にと生まれ変わらせたこの2フロアは、今では区内外の人々が集うアートスペースに。
BUoYの芸術監督をつとめる岸本佳子さんが案内してくれました。

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岸本佳子(きしもとかこ):BUoY芸術監督。ドラマトゥルク・翻訳家。2009 年より多国籍・多言語劇団「空(utsubo)」主宰。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。米国コロンビア大学芸術大学院(MFA)ドラマツルギー専攻。

「BUoYをオープンしたのは、このビルに入居した現BUoYメンバーが、偶然、他のフロアで手つかずになっていたスペースを知ったのがきっかけです。人を介して私の耳にも入り、この奇跡のようなスペースとの出合いを、なんとかしたいという一心でした」

そう語る岸本さんは演出家であり、東京大学大学院在学時代、国や文化圏の異なる舞台を、言語のみではなく演出や空間づくりも含めて観客に届けるための研究と実践を重ねていた経験の持ち主。
各国のアートに触れたからこそ、日本国内でアーティストが小劇場やギャラリーを低料金で利用できる環境の少なさを常日頃感じていました。
役者、建築家、ダンサー、弁護士などといった協力者を集めながらクラウドファンディングで資金を募り、アートにまつわる文化施設の経営なども手がける東京芸術大学音楽学部音楽環境創造科、市村作知雄准教授の後押しもあって、BUoYの実現に至りました。

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地下は演劇やダンスなど、エンターテインメント以外の公演を行う劇場空間。銭湯の名残を生かした舞台が異彩を放つ。
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900平方メートルの広さをもつ小劇場は座席が固定されていないので、レイアウトが自由自在。

地下に足を踏み入れて、驚く為我井さん。
なんとこの小劇場、舞台に銭湯の浴槽、洗い場の一部が残っています。
「こうしてかつてのまちの記憶を残しているのは、私たちが、あくまでも身近な場所でアートに触れてほしいと考えていることもあります。アートに触れる場所の敷居を低くしたいんです」

そう話す岸本さんに促され、2階に上がると、そこには、地域の人もふらりと立ち寄れるカフェと、カフェスペースにつながったギャラリー、そしてアーティストのアトリエが。

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この日の展示は「平澤賢治個展 EN ─ Responding to Ko Murobushi」(現在は終了)

「カフェというオープンなスペースを中心に据えたことで、身構えずにここに立ち寄って、アート作品を感じてもらえるのかなと」
案内されたギャラリーではこの日、舞踊家の姿がサーモグラフィカメラで撮影された、写真家の平澤賢治さんによる作品が展示されていました。 さらに、お隣のアトリエで制作中の平澤さんの姿がありました。

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2016年に発表した『HORSE』シリーズがISSEY MIYAKE MEN 2016年秋冬コレクションに起用されるなど、多方面に活躍する平澤賢治さん。現在は東京とロンドンを拠点に活動。

「実は、ミリオン通り商店街にある『福寿堂』という和菓子屋さんに、先ほどの平澤さんの作品のモデルにもなったギリシャ人のダンサー、ファニー・セージさんが、公演前に通っていたらしいんです。そして公演当日、お店の夫婦を招待したことで、ふだんはこうした表現に触れることのなかった方との接点になることができました。
ご夫婦はこれまで、アートを見に行くという選択肢がなかっただけで、実は出会いを潜在的に求めていらした。BUoYを千住に作ってよかったなと思いましたよ」

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2階は元・ボウリング場ならではの約600平方メートルの面積を活かしたカフェ、ギャラリー、稽古スペース。
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「木のぬくもりが感じられてアットホームなスペースですね」(為我井さん) 「内装を手がけてくれたのは、建築家の佐藤研吾さん、大工の青島雄大さんなど、若手のメンバーなんですよ」(岸本さん)

毎週月曜午後4時から7時には、このビルのオーナー代理人の方による子ども食堂が開かれるなど、地域との関わりも深い「BUoY」。
海に浮かぶ浮標を意味するこのアートスペース、まちにとっても素敵な目印になってくれていました。

■北千住 BUoY
住所:足立区千住仲町49-11
お問い合わせ:info@buoy.or.jp
※カフェのオープンは水曜〜日曜 正午~午後7時(休業:月曜、火曜、年末年始、お盆)
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千住のまちを見守り続けた日本家屋で 情景としてのアートを感じる

次にやってきた、BUoYから徒歩5分足らずの場所にある、日本家屋「仲町の家(なかちょうのいえ)」。

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千住仲町界隈を開拓した石出掃部介吉胤(いしでかもんのすけよしたね)の子孫が残し守ってきた家屋。

 戦前に建てられたこの日本家屋は今、「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」(通称「音まち」)という、”市民参加型アートプロジェクト”のメンバーが運営しています。
足立区にアートを通じた新たなコミュニケーション(縁)を生み出すことを目指した音まちの活動がスタートしたのは、2011年。
音楽家・大友良英さん、東京藝術大学で教鞭をとる現代美術作家の大巻伸嗣さんなどを招いたアートイベントを多数手がけてきました。
中でも無数のシャボン玉で見慣れた景色を光の風景へと変貌させる「Memorial Rebirth 千住」(通称「メモリバ」)は、NHKの地域発ドラマでワンシーンに取り上げられるなど、まちの風景をアートで象徴的に彩る活動を8年継続しています。

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吉田武司(よしだたけし):「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」ディレクター。京都造形芸術大学芸術表現・アートプロデュース学科卒業。

建物の案内してくれたのは、音まち事務局・ディレクターの吉田武司さんです。
「実はこちらは、2年前の音まちの活動がつないでくれた場所なんです。2016年、メモリバを手がけている大巻伸嗣さんによる新たな試みとして、『くろい家』という作品を展示しました。千住の仲町で築50年を超える木造2階建の空き家を用いて「時間の影」を揺らす、という表現だったのですが、この『くろい家』の管理会社さんは仲町の家も管理されていて、建物の有効活用をお願いしたいとご相談を受けました」

この家屋に最低限の修繕を行い、音まちでは2016年秋より映像展示や写真展、トークやワークショップなどを次々と展開。
美術家の友政麻理子さんがここに滞在しながら映画製作を手がけるなど、まちとアートをつなぐ活動を続けてきました。

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和室の部屋に置かれた天然木のテーブルの上には、美術家の友政麻理子さんからの素敵なメッセージが。
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この家の中で聞くことができる「千住タウンレーベル」は、レコードというメディアにまちの音を記録したプロジェクト。

「プロジェクトの展示中でなくても入ることができるんですか?」との為我井さんからの質問に、吉田さんは、
「これまでは音まちプロジェクトの活動拠点としてきましたので、展示期間以外にオープンはしていませんでしたが、2017年からは関わりのあるアーティストや学生の皆さんの展示や発表の場などでも活用していただき、だんだんとにオープンできる機会を増やしていきました。
そして今年から、多くの方のご協力を得て、週に3日、ここを開放できるようなりました」

6月末から「文化サロン」として、毎週土曜~月曜、祝日の午前10時~午後5時に、誰でも立ち寄れるようになっている仲町の家。
「訪れた皆さんにとって、普段出会わない人とここで出会うきっかけになったり、そこから何かしらの活動が将来生まれていったりしたら嬉しいなと思っています。
日常を情景的にアートとして表現できるのが、ここ『仲町の家』だと僕たちは考えています。
ぜひ気軽にお茶を飲みに来るような気分で、アートや人とのさまざまな思いがけない出会いを楽しんでください」

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縁側から臨む庭園にはカエルが姿を見せることも。有志が集まって定期的に草むしりを行うなど手をかけている

『仲町の家』は、9月29日にグランドオープンし、まちの文化サロンとして新たな出発を迎えます。
残していきたいまちの風景に現代のアートが加わることで、新しくもなつかしい空間が生まれていました。

■仲町の家
住所:足立区千住仲町29-1
TEL:03-6806-1740 (午後1時~6時、火曜・木曜除く)
開館時間:土曜・日曜・祝日の午前10時~午後5時
※10月1日(月)~15日(月)は毎日開館。10月4日(水)~11日(木)は午前9時から開館
※9月29日(土)~平成31年3月4日(日)の開館時、三上亮/遠藤幹大「Under Her Skin」(映像:サウンドインスタレーション)が観賞できる
公式HP:http://aaa-senju.com/
費用:入場無料
※最新情報は、仲町の家Facebookページでご確認のうえ、お越しください。

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千住唯一の美術館で楽しむ世界屈指の名品の数々

最後に向かったのは、千住橋戸町にある「石洞美術館」。
半導体、スマートフォン、車などに使用するはんだを扱う、1938年創業の千住金属工業株式会社。この本社ビルとつながる建物内にある千住唯一の美術館です。

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銅板葺きの三角屋根が特徴的。壁面には煉瓦タイルが貼られ、上から見ると平面六角形になっている

案内してくれたのは、石洞美術館学芸員の林克彦さん。こちらの開館当初から、展示品にまつわる解説を含む、調査研究などさまざまな業務を担当しています。

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林克彦(はやしかつひこ):石洞美術館学芸員。縄文土器の研究を経て、現在は様々な工芸に興味を持つ。工芸の魅力を多くの方に伝えるための講演活動なども多数。

「この美術館は、2006年に公益財団法人美術工芸振興佐藤基金によって設立されたものです。所蔵品は、千住金属工業創業者の佐藤千壽(せんじゅ)の70年近くに渡るコレクションを中心としておりまして、土器、陶磁器、仏像、青銅器、玉器などさまざまです。また、建物のアイディアも、佐藤によるもの、美術館の名前は佐藤の雅号「石洞」から採ったものです」

中に入るとまずは、葛飾北斎「冨嶽三十六景 武州千住」、歌川広重「名所江戸百景 千住の大はし」など、千住に関わる版画のレプリカがお出迎え。
1階と2階の展示空間が曲線になったスロープでつながり、壁面のガラスケースに並んだ展示物を観賞しながら上がっていく設計は、表参道ヒルズなどで知られる入江三宅設計事務所によるもの。

為我井さんがその特徴的なスロープを歩くうちに、「たしかに表参道ヒルズを思い起こしますよね」と伝えると、
「とはいえこのスロープ、表参道ヒルズよりうちの美術館の方が先だそうですよ(笑)」と林さんは笑みを浮かべていました。

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曲線のスロープに作品が並ぶ様子は、「カタツムリの殻」と呼ばれるグッゲンハイム美術館も彷彿とさせる

 現在は「イスラーム陶器展」が開催中。
「イスラーム陶器とは、7世紀以降に西アジア、中央アジア、北アフリカを中心とするイスラーム圏で焼かれた施釉陶器の総称です。
この展示では、9~10世紀頃から17世紀までのイスラーム陶器40点あまりを中心として、イスラーム陶器が誕生する前の西アジアの工芸作品をご覧いただけます。
イスラーム陶器の影響を受けたと言われる他国の陶器などを含め、すべて館蔵品の展示です。まずは中へどうぞ」

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鉱物の混じったガラスが経年変化で鮮やかな色を見せることも

「9世紀から14世紀のイスラーム陶器の一種には、金・銀器の模倣をしようと、錫や鉛を使った白うわぐすりの上に、酸化銀や酸化銅を混ぜ、金属的な輝きを持たせた顔料が使われていました。
この顔料で絵付を施したのが「ラスター彩陶器」と言われていて、イスラーム陶器を象徴する陶器の一つと言えます。
意外と知られていませんが、イスラーム陶器というのは中国の陶磁器にも匹敵する程の技術や手法が見られるんですよ。
たとえば、藍色を陶器に彩色した例はイスラームで先に発見されています」

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イスラームでは藍色は神聖な色。人々はトルコ石やラピスラズリなどに憧れていた。

「この器には、お刺身なんかを盛りつけたら美味しそう」
さすが飲食店を経営している会社の広報だけあって、為我井さんは器を見るうちに料理の盛りつけが浮かんでくるようです。

「中国や日本の器にはあまり見られないのですが、ヨーロッパなどの陶器には紐を通す穴が開いていて、壁にかけて楽しめるものもあるんですよね。
美術品として目で見て楽しむお皿という目で見てみると、また違った見え方ができるかもしれません」

「ちなみに林さんのイチオシを教えてください」

「中央にスフィンクスが鮮やかに描かれた、12世紀のシリアで作られたと考えられるラカビ手の皿です。
ほのぼのとした線は具象的でわかりやすいですよね。これは、日本国内で10枚もないと思います」

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見込み(器の内側の部分)にある刻み線が、素地に器具を押し当てて線を沈めているのが特徴的。

たしかに愛らしい表情のスフィンクス。世界的にも貴重な逸品との出合いに、為我井さんも驚きの声を上げられていました。

特別に林さんの解説付きで館内を一巡りした後は、美術館に隣接する喫茶店「妙好」へ。

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区内の障がい者団体「友愛会」が運営。林さんのおすすめは濃厚ココア

「千住にゆかりのあった経営者の方がこれほどの美術品を集められていたことを、恥ずかしながら今日初めて知りました。
料理をお出ししている会社に勤めている自分にとって縁がある器、しかも貴重で美しいものばかりだったので、展覧会ということで、勉強になりました」と満足そうな様子でした。

「イスラーム陶器展」の開催は12月16日(日)まで。4ヶ月単位で展覧会の企画は変わるそうなので、シーズンごとに足を運んでみたくなりますね。

■石洞美術館
住所:足立区千住橋戸町23
TEL:03-3888-7520
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜(祝日の場合は翌火曜)※夏季・年末年始等の不定休期間あり
入館:一般¥500 学生¥300  ※小学生以下の方(要引率者)、65歳以上の方、障害者手帳をお持ちの方は無料。一般の方以外は受付で証明書の提示が必要

【茶館「妙好」】
TEL:03-3888-9882
営業時間:月曜~金曜 午前10時~午後4時30分

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おわりに

「千住に住んで1年、働いて4年になりましたが、知らないことばかりでした。
どのアートスペースもどこかアットホームだったのが印象的ですね。
人との出会いも大事にされていたりと、どこも行きやすいですよね。こうした場所なら気軽にデートにも来れますし、
昼間の千住も楽しめそうです」
と、為我井さん。

秋の散策に、ぜひ、千住のまちらしさを楽しめるアートスポットを訪れてみてください。

この記事を書いたのは…吉満明子(よしみつあきこ)さん

自宅そばの千住三丁目でひとり出版社「センジュ出版」と6畳ブックカフェを手がける編集者。
千住大川町在住、一児の母。2015年、千住3丁目に株式会社センジュ出版を設立。
事務所の一角の6畳和室スペースにちゃぶ台のあるブックカフェ「SENJU PLACE」を運営。
「千住紙ものフェス」「センジュのがっこう」など、まちのイベントのプロデュースも多数手がけ、現在は足立区文化・読書・スポーツ総合推進会議委員も務める。
編集協力に「あだちのオハコ」(足立区観光交流協会)「あだちのものづくり物語」(足立区工業会連合会)。

http://senju-pub.com/

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